6月21日、第9回文学散歩は「旧前田侯爵邸〜日本民藝館」を散策しました。
最初の訪問地は駒場公園内の「旧前田侯爵邸洋館」。
ガイドの方に案内していただいて館内を見学しました。
百万石で知られる旧加賀藩主の前田家第16代当主で、ドイツ留学やイギリス滞在経験のある前田利為(としなり)が、昭和4年(1929)に自邸として建てた延床面積2930平方m(約900坪)の洋館です。
イギリス・チューダー様式で、玄関ポーチなどの扁平アーチにその特徴が見られます。
関東大震災直後に建てられたので、なにより重視されたのは耐震性で、基礎は鉄筋コンクリート造り。
東日本大震災の被害もまったくなかったそうです。
外国からの賓客を迎えるために、イタリア産大理石のマントルピースや柱、フランスの絹織物の壁紙、イギリス製の家具などが配され、個人の邸宅としては東洋一と評されたといいます。
装飾に透かし彫りが多用されているのは、どうしても暗くなりがちな邸内に光を取り入れるための配慮ということで、どこも明るく光に満ちていました。
なにより驚いたのは、この建物は昭和の初めに建てられてた時から、地下のボイラー室で石炭を焚いて温風を送るという地下1階地上3階の全館セントラルヒーティングになっており、各部屋にあるマントルピースから温風が出るシステムだったこと。
1階は社交の場で、ここが一番大きな大客室。
次の部屋は晩餐会などを行った大食堂でした。
2階はご家族の生活の場で、この菊子夫人の居室は家族団欒の中心となっていたとか。
この部屋のマントルピースの鋳物のカバーは菊子夫人にちなんで菊の花という素敵なデザイン。
また別の部屋のカバーに前田家の家紋の梅鉢紋を見ることができ、このようなさりげない和風の装飾に美意識の高さと奥床しさを感じました。
次に訪問したのは洋館の隣に建設された「旧前田侯爵邸和館」でした。
昭和4年(1929)に洋館が建設された後、外賓のもてなしにぜひとも必要とのことから、翌昭和5年(1930)日本家屋が建てられました。
現在は、一階の和室は駒場公園の無料休憩所として公開されている贅沢な空間となっています。
橋本雅邦が東洋画の伝統的画題である「山水」を、四季の移ろいとあわせて描いた本物の襖絵は、加賀百万石のお膝元の金沢市の石川県立美術館に収納されているそうですが、いまも残る欄間は装飾の派手さはありませんが、「節のない檜の正目の一本物」という贅を尽くした逸品だそうです。
昭和17年(1942)に利為公がボルネオで戦死されたあと、屋敷が民間の会社に売却され、さらに第二次世界大戦後に米軍に接収されました。
昭和32年(1957)接収解除ののち、国が買い上げた洋館、和館、駒場公園が都へ提供されました。
「旧前田侯爵家駒場本邸」として東京都の文化財に指定されて現在にいたります。
昼食は、東京大学(駒場東大)構内へ。
あふれる緑の中に佇む「ルヴェソンヴェール駒場」は、「旧制一高」の同窓会館を改修してオープンした駒場東大のゲストハウス。
2階の「ファカルティクラブ橄欖(かんらん) 」にてフランス料理を味わいました。
・ アスパラガスの冷製スープ
・ 軽く炙った本鱒 京都など各地の季節野菜と共に
・ 蒸し焼きにしたホロホロ鳥を新ゴボウの香るスープ仕立てで
次に駒場公園隣接の日本民藝館に伺いました。
「民藝」という新しい美の概念の普及と「美の生活化」を目指す民藝運動の本拠として、思想家の柳宗悦により企画され多くの賛同者の援助を得て昭和11年(1936)に開設された日本民藝館。
17日から始ったばかりの生誕120年記念の「濱田庄司展」を拝見しました。
柳宗悦が設計し、72歳で没するまで生活の拠点とした母屋からなる西館を見学し、そのあと、日本近代文学館に向かいました。
参加者は25名、昭和初期の日本の美を堪能できた、中身の濃い1日となりました。
次回は11月14日(金) 「旧古河庭園〜六義園〜東洋文庫」の予定です。
お江戸の庭園散策をご一緒に楽しみませんか?
高校21回 屋敷茂子